豊かであたたかな言葉が子どもの脳を育む
パパに伝えたい8つのこと
保育者の専門性と乳幼児と大人の関わりや、乳幼児の適切な環境を主な研究テーマとする東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科 教授の高山静子先生に、パパに伝えたい言葉と脳の関係をお聞きしました。パパの言葉で子どもの脳が育つ!
1.親の言葉が脳の発達に影響
赤ちゃんの発達に必要なものは、食事・睡眠・運動、そして人との関わりです。研究では、親の言葉の質と量が、子どもの脳の発達に影響することが明らかになっています。
脳を育む言葉とは、子どもの興味関心に合った言葉であり、語彙が豊かな言葉です。海外の研究では、3歳の終わりまでに家庭によって3000 万語の格差があり、言葉が豊かであるほど子どもの言語習得や学習能力が高いとの結果が出ています。
子どもとあたたかで豊かな言葉を交わすことは、「無料で、最も効果的な早期教育」※1 です。
※1 ダナ・サスキンド著 掛札逸美訳 高山静子解説「3000 万語の格差 : 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ」明石書店2018
2.赤ちゃんには状況や感情の説明
でも、赤ちゃんに何を話せばよいのでしょうか。
誰もが行いやすいのが、状況や感情の説明と、関心を向けていることに対して説明することです。
生まれたばかりの赤ちゃんには、状況や感情の説明からはじめます。抱き上げるときには「抱っこするよ」「パパだよ」「ここはバアバのお家だよ」「パパたちは君が生まれるのを待っていたよ」と周囲の状況や自分の感情を話しましょう。
よく話しかけていると、1か月を過ぎる頃にはパパの目を見つめて「うんぐ~」などと声を出し始めます。
赤ちゃんの声を真似して話せば、赤ちゃんもまた声を出すでしょう。わずかひと月ほどで喃語での会話が成立しはじめます。
3.子どもの関心に心を向けること
親と信頼関係が成立すると、赤ちゃんは周囲の環境にも関心を向けるようになります。
そのときには、子どもの関心を向けたことについて話します。
「大きな音がしたね」「葉っぱがゆれてるね」など。
状況や感情を説明することと、子どもの関心について話すことは、子どもが小学生や大学生になっても同じです。
親は、子どもの関心に対して心を向け、大人として状況を説明し情報を共有して、子どもと一緒に考えていくことができます。
4.子どもはゆっくりと発達する
生まれるとすぐに歩き、トイレに行き、聞き分けが良い子どもはいません。赤ちゃんは20 年以上をかけて、ゆっくりと大人になっていきます。発達は混沌から秩序へ、未調整から調整へ、非効率から効率へと進みます。
そのため赤ちゃんや幼児の行動は、大人からはバラバラで無駄なことばかりしているように見えます。乳幼児期の子どもは環境の探索者であり、自分が能力を獲得できる行動を繰り返し行います。
たとえば、引力を確認したい子どもはくり返し物を落とします。高いところに登る能力を獲得したい子どもは机の上に登ります。
大人が「いたずら」と呼ぶ行動は、子どもにとっては環境を学習して新しい能力を獲得する学びの行動です。
5.先取り教育は失うものもある
教育は適時性が肝心です。発達の先取り教育をすれば、その時期に必要な経験を奪います。たとえば、ハイハイする前の赤ちゃんを無理に座らせ手をもって歩かせれば、ハイハイで安定した腰や体幹が育つ機会を失い、不安定な歩行で顔から転ぶ子どもになりがちです。
子どものゆっくりとした遠回りとつきあって、子どもと一緒に道端にしゃがみ、何十回もブランコをこいで空をながめてみましょう。子どもと一緒に外で遊ぶ時間は、無料のマインドフルネス研修です。
6.健やかに育つと親を困らせる行動も増える
よくあやされて脳が発達した赤ちゃんは、「2か月泣き」が出てくることがあります。よく泣く赤ちゃんは、よく抱かれよくあやされ、ますます脳が発達します。
またパパやママとしっかりと信頼関係ができた赤ちゃんは、7か月頃から知らない人を見ると泣きだす「人見知り」も出てきます。
自我がしっかりと育った子どもは2歳頃から「イヤ」と言う、人のおもちゃを取る、おもちゃを貸さない、行動を止めるとひっくり返って泣くなど親を困らせる行動が出てきます。
これらはいずれも子どもが健やかに育っている証拠であり、心配は不要です※2 。
※2 高山静子「子育て支援ひだまり通信」チャイルド本社 2010
7.困った行動の対処法
公園で他の子を押したときなど、つい大声で怒鳴りたくなりますが、それは逆効果。研究では親が怒鳴ったりたたいたりするほど、子どもも切れやすい子になることが明らかです。またストレスが高い環境で育つ子どもは、言葉の習得も遅く、学習能力も低くなります。
気持ちを受けとめ、子どもの興味関心に合わせて、言葉で提案を行ってみましょう。相手の気持ちを受けとめ、相手の関心に合わせて提案することは、仕事でも行っていて得意な方も多いはずです。
感情的にならずに相手の話を聞きユーモアでかわし言葉で提案する。このような「子どもにしてほしい行動」を親が繰り返ししてみせることです。
8.新しい家族との生活を楽しむ
ゲームも釣りも飲み会も、一生できます。しかし子どもが幼い時期に、家族で一緒にすごし、子どもの姿を見ながら笑ったり心配したりすることは二度とできません。
出産後の女性は、ホルモンの影響で情緒が不安定です。抱き方もあやし方もわからないのは、女性も男性も同じであり、初めての育児では毎日が不安だらけです。また睡眠不足が続けば、情緒は不安定になります。ママがイライラしているときには、少しでも寝てもらいましょう。
子どもにも親にも良いのは、人のなかで子育てをすることです。家庭の中よりも、大きな子どもの様子を見聞きできる近所の公園や子育てひろばの方が、会話も体験もずっと豊かになります。
二度と来ない子育ての時間を、家族で楽しんでほしいと願っています。
お話を伺った方
高山 静子先生
東洋大学ライフデザイン学部生活支援学科 教授
子育て中に保育士の資格を取り保育士に転職。福岡市で子育て中のパパママと一緒に子育て広場やまちづくりの活動に取り組む。
平成 20 年より保育者の養成と研究に専念する。
平成 25 年 4 月より東洋大学。教育学博士(九州大学大学院)。
著書に『学びを支える保育環境づくり~幼稚園・保育園・認定こども園 の環境構成』(小学館)『子育て支援ひだまり通信~遊びとしつけの上手なコツ』(チャイルド本社)、『育つ・つながる子育て支援~具体的な技術・態度を身につ ける 32 のリスト』(チャイルド本社、共著)、『3000 万語の格差』(明石書店、解説)など。
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札幌市子ども未来局子育て支援部子育て支援推進担当課子育て支援企画係
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更新日:2021年02月16日